深刻さの理解は難しい 2
2023年11月5日 寺岡克哉
前回では、
「このまま大気中の二酸化炭素が増えて行ったら、西暦2340年には
濃度が2000ppmを超え、人類の90%が死滅しても不思議ではない」
という話によって、「地球温暖化の深刻さ」を広く理解してもらおうと
しましたが、
しかし、およそ300年後の話なんかをしても、周囲の人々には、その
深刻さを理解してもらえなかったことについて書きました。
それで私は、つぎに、
動物や植物にたいして「すでに地球温暖化の影響が現れている」のを
紹介することで、「地球温暖化の深刻さ」を理解してもらおうとしました。
つまり300年後のことではなく、「すでに起こっていること」ならば、
深刻さを理解してもらえると思ったわけです。
* * * * *
たとえば、
北海道の襟裳(えりも)岬の近くに位置するアポイ岳では、高山植物の絶滅
が進行中であり、「すでに手遅れ」となっています(エッセイ286)。
また、
亜熱帯の地域に棲む「ナガサキアゲハ」という蝶は、1940年代には九州
や四国南部が日本の生息の北限だったのに、2000年以降は関東地方でも
生息が確認されるようになりました。
さらには、ナガサキアゲハの他にも、モンキアゲハ、タテハモドキ、イシガ
ケチョウ、クロコノマチョウ、サツマシジミ、クロセセリ、ナミエシロチョウ、
オオゴマダラ、タイワンクロホシジミなど、南方系のさまざまな蝶が、北方に
進出しています(エッセイ289)。
「タイワンウチワヤンマ」というトンボは、もともと、中国の南部や中部から
台湾を経て、日本の南西部に分布している種でした。
しかし1970年代に四国から瀬戸内海を越えて、淡路島、岡山県南端、紀伊
半島西端に渡り、さらに2004年には、静岡県でもタイワンウチワヤンマの
定着していることが確認されました。
また、それ以外のトンボでも、たとえば西南諸島に住むアオビタイトンボ、
ヒメキトンボ、ベニトンボ、コシアキトンボ、オオキイロトンボなどが、海を
渡って北へ分布を広げています(エッセイ291)。
「ヒラタクワガタ」は、中国、フィリピン、そしてインドネシアからインド
まで分布する、東洋における亜熱帯性の種です。
このクワガタは本来、日本の関東地方にはあまり居ない種なのですが、近年
では東京都内や、その周りの県で、かなりの個体数が採集されるようになって
います(エッセイ292)。
生活の場である「海氷」を失ったホッキョクグマ(シロクマ)が、絶滅危惧
種に指定されました(エッセイ294)。
南極の「アデリーペンギン」や「コウテイペンギン」も、絶滅の危機に直面
しています(エッセイ296)。
「マガン」は、冬に日本へやってくる渡り鳥ですが、マガンのやって来る
時期が遅くなり、旅立つ時期が早くなっています。
また、マガンが冬の間に滞在する「越冬地」も、だんだん北方に出現する
ようになりました(エッセイ297)。
1997年の半ばから1998年の末にかけて、過去最大の「サンゴの白化
現象」がおこりました。
この時の「サンゴの白化」は、太平洋、大西洋、インド洋、紅海、ペルシャ湾、
地中海、カリブ海沿岸の、少なくても32ヶ国で起こり、バーレーン、モルディ
ブ、スリランカ、タイ、シンガポール、タンザニアなどの浅い海域では、95%
に近いサンゴが死滅しました(エッセイ309)。
瀬戸内海や大阪湾では水温が上昇しており、それまで居なかった南方系の魚
が相次いで確認されています。
広島湾では2006年までに、南方系のソウシハギやミナミイケカツオ、
「クロカンパチ」と呼ばれるスギなどが捕獲されています。
山口県の上関町沖では2007年に、東インド洋から西太平洋の熱帯に棲ん
でいる有毒魚の「サツマカサゴ」が、瀬戸内海で初めて捕獲されました。
大阪湾では2005年に、暖海系のクロマグロの群れが定置網にかかりまし
た。
さらには、それまであまり見ることのなかったハナザメやシロシュモクザメ
なども、大阪湾で獲れています。
猛暑だった2007年には、沖縄近海など亜熱帯付近の海に棲んでいるロウ
ニンアジや、リュウキュウヨロイアジが確認されました(エッセイ316)。
* * * * *
このように、
かなり以前から、動物や植物には地球温暖化の影響が現れていました。
そして現在では、
北海道でも桜の開花がずいぶん早くなり、昔は獲れなかったマグロやブリ
など本州の魚が、ふつうに獲れるようになっています。
しかし、大勢の人々にとっては、
「たしかに、動物や植物には異変が起こっているのだろう」
「しかしそんなのでは、地球温暖化に対する深刻さなど、あまり感じない」
というのが、正直な所ではないでしょうか。
上で紹介した一連の文章を書いてから、16年ほど経った今にして思えば、
動物や植物の異変によって「地球温暖化の深刻さ」を伝えるという方法は、
あまり効果がなかったのだと、言わざるを得ません。
* * * * *
申し訳ありませんが、この続きは次回でやりたいと思います。
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