「悪」とは何か 1
2023年3月5日 寺岡克哉
すこし以前に書いた、「エッセイ1092」と「エッセイ1093」で、
「 ”悪” は人為的なもの」であることについて書きました。
つまり、「悪」という概念は、
人間だけにしか存在せず、他の動物には全く存在しません。
だから「悪」は、きわめて人為的な概念なのです。
そのため、たとえば「エッセイ1092」で書きましたように、
「殺人」という、実際に起こった現象(自然界で物理的に起こった
現象)としては、まったく同じ現象であっても、
議論の余地なく、誰もが「悪である」と断ずることができる場合と、
そう簡単には、「悪である」と断ずることができない場合が生じて
しまいます。
このようなことが起こるのは、
「悪」というものが、自然法則によって、客観的に決定されるもの
ではなく、
「悪」というものを、人間が、人間の都合で、人為的に決めている
からに他(ほか)なりません。
そうすると、
「一体、どんな場合が悪で、どんな場合が悪とは簡単に言え
ないのか?」
「悪には、どんなものがあるのか?」
「けっきょく、悪とは何なのか?」
というような疑問が、とうぜん湧き起こってきます。
それで今回は、そのことについて考えて行きたいと思いました。
* * * * *
まず第一に、
「大多数の人間が、犯罪として納得している悪」というのが、ある
でしょう。
たとえば、
強盗殺人、誘拐殺人、強姦殺人、無差別殺人などの、明らかな
犯罪としての殺人や、
暴力、虐待、誘拐、窃盗、詐欺、強盗、強姦などの、明らかな犯罪
です。
これらの犯罪は、議論の余地なく「悪」であると、万人が納得して
いるので、
法律によって取り締まり、犯人を逮捕して、裁判にかけ、刑罰を
与えるべき「悪」です。
* * * * *
そして第二に、
「権威者や権力者によって引き起こされる悪」というのが、考え
られます。
これは、
宗教の権威者によって引き起こされる「宗教戦争」や、
国の権力者によって引き起こされる「戦争」などです。
このような悪は、
一般民衆には認識することができないほどの、「巨大な悪」に
なる場合が多く、
戦争を引き起こした権威者や権力者だけでなく、ムリヤリ戦争
に参加させられた兵士や国民でさえも、
「正義の行いだ!」と、心から信じ込んでいる場合がほとんど
でしょう。
× × ×
たとえば、
「1人を殺せば犯罪者、100万人殺せば英雄」という言葉があり
ます。
そしてこれは、
あまりにも大きな悪になると、一般民衆に「悪」と認識されない
どころか、
良いこと、素晴らしいことだと認識される可能性さえ、あることを
示唆(しさ)しているのです。
× × ×
ところで、
もしも戦争において、「悪でない場合」があるとすれば、
それは、国や家族を守るために行う、「防衛のための戦争」で
しょう。
しかしながら、これも、
「攻撃は最大の防御」という言葉があるぐらいで、
「防衛! 防衛!」と言いながら、侵略を進めるような場合も、
残念ながら存在します。
また、近年では、
国をまたぐ「長距離ミサイル攻撃」の能力が上がっており、
発射後のミサイルを迎撃するだけでは、自国を防ぎきれず、
「敵国のミサイル基地を攻撃することによる防衛」というのも、
必要になって来ています。
しかしこれは、
敵国がミサイルを発射する前に、「先制攻撃」をしなければ、
とうぜん防衛になりません。
そのため、
本当に防衛のための攻撃だったのか、それとも、防衛を理由
にして戦争を勃発(ぼっぱつ)させたのか、
たいへん分かりにくい状況が生まれる懸念があります。
これらのことから、
「防衛のための戦争ならば、悪ではない」と、単純に言い切る
ことが難しくなっているのです。
× × ×
ところでまた、
「勝てば官軍、負ければ賊(ぞく)軍」という言葉がありますが、
これは、戦いに勝った方が正義であり、負けた方は正義でない
という意味です。
つまり、この言葉は、
道理はどうであれ、「強い者が正義である」ということを、示して
いるのです。
たとえ、侵略戦争であっても、
勝って侵略に成功すれば、悪でないどころか、むしろ正義で
あり、
その逆に、負けて侵略を許せば、正義でなく悪となるのです。
これは、
何ともムチャクチャな屁理屈であると、私には思えるのですが、
しかし例えば、ロシアのプーチン大統領が、この理屈の下に、
ウクライナへの侵略戦争を行っていると想定すれば、
彼の行動原理が、すこしは見えてくるような気もするのです。
× × ×
以上のように、
「権威者や権力者によって引き起こされる悪」というのは、
一般民衆には認識できないほどの「巨大な悪」になってしまい、
それが「悪である!」と理解されるのが、とても難しいどころか、
むしろ逆に、「正義である!」と誤認されてしまうことも、しばしば
なのです。
* * * * *
申し訳ありませんが、この続きは次回でやりたいと思います。
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