般若心経について 2
                            2021年12月5日 寺岡克哉


 今回は、

 般若心経が言おうとしている、本質的な意味について、

 私なりの説明をしてみたいと思います。


           * * * * *


 まず第一に、般若心経の最初の部分、

 觀自在菩薩(かんじざいぼさつ) 行深般若波羅蜜多時(ぎょう
じんはんにゃはらみったじ) 照見五蘊皆空(しょうけんごおん
かいくう) 度一切苦厄(どいっさいくやく)

 の中にある、

 「照見五蘊皆空(しょうけんごおんかいくう) 度一切苦厄(ど
いっさいくやく)」

 という二つの語句で、般若心経のすべてが言い表されていると
私は考えています。



 そして、この二つの語句にたいし、

 (異論はあるかも知れませんが)私なりに、いちばん適切だと
思えるように訳してみると、

 (観自在菩薩は)この世に存在するもの全てが、「空(くう)」で
あるということを発見して、

 あらゆる苦しみや災厄から、救われる方法を示した。

 と、なります。



 なので、般若心経の本質を理解するためには、

 「空(くう)」とは何か? ということと、

 なぜ、この世に存在するもの全てが「空」ならば、あらゆる苦し
みや災厄から救われるのか


 ということを、理解する必要があるのです。


           * * * * *


 さて、まず「空(くう)」とは何か? ですが、


 「空」とは、

 この世に存在する全てのものが、それぞれ独立した「実体」と
して存在するのではなく、

 この世に存在する全てのものは、無限につづく原因と結果の
「因果関係」によって、存在するという考え方です。



 そしてさらに、この「因果関係」には、

 「時間的な因果関係」と、「構成要素的な因果関係」があります。


             * * * * *


 「時間的な因果関係」とは、

 過去の原因が、現在の結果を存在させているという因果関係
です。



 たとえば、今ここに私が存在するのは、過去に親から生まれた
からです。

 そして私の親が存在するのは、そのまた親から生まれたから
です。

 このようにして「時間的な因果関係」は、どんどん過去まで遡(さ
かのぼ)って行きます。



 ところで・・・ 私の祖先は、人類だけではありません。

 人類の祖先から、猿の祖先へ、さらには哺乳類の祖先へと遡り
ます。

 さらには多細胞生物から、単細胞生物へ、そして地球で最初の
生命体にまで遡るのです。



 が、しかし、

 「時間的な因果関係」は、そこで終わるわけではありません!



 なぜなら生命が誕生する前に、地球が作られなければ、ならな
かったからです。

 そして地球が作られる前には、太陽系が作られなければ、なり
ません。

 さらに太陽系が作られる前には、星間物質が作られなければ
ならず、

 星間物質が作られる前に、ビッグバンが起こらなければ、なりま
せんでした。



 そしてさらには、

 ビッグバンが起こる前の状態でさえも、何かしらの「時間的な
因果関係」が、無限に続いていたはずです。


 このように、

 それら無限につづく「時間的な因果関係」によって、今ここに
私は存在しているわけです。


            * * * * *


 一方、「構成要素的な因果関係」とは、

 この世に存在するものは、それより下層(細部)の構成要素
から出来ているという因果関係です。



 たとえば、

 「私」という一個の人間は、脳や内臓、骨、筋肉、皮膚などの
色々な部位から出来ています。


 そして、

 それら脳や内臓などの各部位は、無数の細胞から出来て
おり、

 それぞれの細胞は、無数の分子から出来ています。



 さらには、

 分子は、原子から出来ており、

 原子は、原子核と電子から出来ており、

 原子核は、陽子と中性子から出来ており、

 陽子や中性子は、クォークとグルーオンから出来ている・・・ 

 と、いうように、「構成要素的な因果関係」は続いていきます。



 そして現代科学では、まだ解明されていませんが、

 クォークやグルーオンさえも、さらなる下層の構成要素から
出来ているはずで、

 そのように「構成要素的な因果関係」は、無限に続いていくもの
と思われます。



 それら、無限につづく「構成要素的な因果関係」によって、

 「私」という一個の人間が出来ており、この世に存在していると
いうわけです。


            * * * * *


 以上のように、

 この世に存在する全てのものが、

 「時間的な因果関係」や、「構成要素的な因果関係」などの、

 無限につづく「因果関係」によって存在しているというのが、

 「空(くう)」という考え方(空の思想)なのです。



 ところで、

 この世に存在する全てのものが「空」であるならば、

 なぜ、あらゆる苦しみや災厄から救われるのでしょう



 申し訳ありませんが、それについては次回で述べたいと思い
ます。



      目次へ        トップページへ