「創発」について
2021年11月14日 寺岡克哉
前回で私は、
「素粒子帝国主義の崩壊」を、素直に受け入れることができた
要因として、
トルストイの人生論に書かれていた「水車小屋の男」の話を、
前もって何回も読み込んでいたことについて述べました。
しかし、その他にも、
「素粒子帝国主義」が崩壊している根拠として、
「創発(そうはつ)」と呼ばれる現象が、存在していることが挙げ
られます。
ところで、この「創発」は、
私が本サイトを開設してから後に、知るようになった現象で、
そのとき私は、すでに「素粒子帝国主義の崩壊」を受け入れて
いました。
なので、「創発」という現象の存在は、
私が「素粒子帝国主義の崩壊」を受け入れた要因になってい
ません。
しかしながら「創発」は、
「素粒子帝国主義の崩壊」に大きな根拠を与えるものであり、
しかも、すごく重要な現象であると私は考えていますので、
ここでちょっと紹介してみたいと思いました。
* * * * *
さて、
「創発」についてインターネットで調べてみると、だいたい以下
のような説明がされています。
●部分の性質の単純な総和にとどまらない性質が、全体として
現れること。
●局所的な複数の相互作用が複雑に組織化することで、個別の
要素の振る舞いからは予測できないようなシステムが構成され
ること。
●この世界の物質や生物等は、多層の階層構造を作っているが、
下層の要素とその振る舞いの記述をしただけでは、上層の挙動
にたいする予測が困難だということ。
●下層にはもともと無かった性質が、上層において現れること。
* * * * *
上の具体的な例として、
たとえば、前々回で取り上げた「教授の話」が挙げられます。
つまり、
いくら「素粒子」(陽子や中性子)のことを研究しても、
「原子核」のことは理解できないという事実です。
これは、
陽子と中性子が集まって「原子核」が作られると、
もはや個々の陽子や中性子には存在しない性質、
つまり、原子核に特有の「新しい性質」が現れていることを証明
しています。
それはつまり、
陽子や中性子を下層の構造、それらが集まった原子核を上層
の構造とすれば、
下層にはもともと無かった性質が、上層において現れているの
だから、
まさに、「創発の実例」といえるでしょう。
× × × ×
また、もう一つの具体的な例として、
「脳細胞」と「意識」の関係があります。
つまり、ひとつ一つの脳細胞は、
繋(つな)がり合った隣(となり)の脳細胞から、電気信号を受け
とり、
繋がり合った別の隣りの脳細胞へ、電気信号を伝えるという、
とても単純な働きしかしていません。
ところが!
およそ1000億個とも言われる、ものすごい数の脳細胞が、複雑
に繋がり合って電気信号をやりとりすると、
意思や感情を持ったり、複雑な思考をしたりする、いわゆる「意識」
というものが発生するわけです。
つまり、
ひとつ一つの脳細胞を下層の構造、それらが複雑に繋がり合っ
た脳全体を上層の構造とすれば、
下層にはもともと無かった性質(つまり意識)が、上層において
現れていることになり、
やはりこれも、「創発の実例」だといえるでしょう。
* * * * *
ところで、
このたび「創発」について調べているうちに分かったのですが、
むかし私が固く信じていた「素粒子帝国主義」のような考え方を、
「要素還元主義」と呼ぶみたいです。
この「要素還元主義」は、じつは古くから存在している、伝統的
な考え方でした。
そして一方、
「創発」は、現代の科学的な進歩(複雑系科学の進歩)によって、
新しく見い出された現象だということです。
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