パキスタン・タリバン
                             2021年9月12日 寺岡克哉


 前回と前々回では、アフガニスタンのタリバンについて、見て
きましたが、

 しかしながら、タリバンを語るときに、忘れてはならないことが
あります。

 それは、「パキスタン・タリバン(注1)」についてです。



 このパキスタン・タリバンは、ものすごく過激で狂信的な組織
であり、

 前回まで見てきたアフガニスタン・タリバンとは、異なる性質の
組織だと見なければなりません。

 アフガニスタン・タリバンと、パキスタン・タリバンを、一緒くた
にしてしまうと、とんでもない誤解を生んでしまうのです。



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注1 パキスタン・タリバン:

 パキスタン北西部の、アフガニスタンとの国境地帯で活動して
いる、イスラム武装組織です。

 傘下(さんか)には、多くの武装集団(兵力推計35000人)を抱え
ていて、パキスタン政府の打倒を掲(かか)げています。

 また、「女が教育を受ける事は死に値する罪」などという主張を
しており、ものすごく過激で狂信的な組織です。

 ちなみに現在のところ、パキスタン・タリバンと、アフガニスタン・
タリバンとは、直接の関係はありません。
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 ところで、2019年にアフガニスタンの東部で、

 NGO「ペシャワール会」現地代表の中村哲・医師(当時73歳)
が、銃撃によって殺害されました。

 そして、その中村哲さんを殺害したのが、このパキスタン・タリ
バンなのです。



 中村哲さんは、2019年12月4日の朝・・・ 

 車に乗っていたところを武装集団に道をふさがれ、銃撃を受け
て死亡しました。

 さらには、同行していた運転手1人と、警備員4人も死亡して
います。



 パキスタン・タリバンの報道担当者によると、

 中村哲さんを襲った主犯格の男は、2021年の1月29日に、

 仲間と首都カブールで襲撃事件を起こし、その現場で警備員
に撃たれ、死亡したということです。


 この主犯格の男は生前に、

 「(中村さんを)誘拐するつもりだったが、(共犯者が)殺してしまっ
た」と、周囲に話していたといいます。



 ちなみに、中村哲さんを殺害した本人である共犯者は、

 アフガニスタンから出国し、現在はパキスタン北西部に潜伏して
いるという情報があります。


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 また、パキスタン・タリバンは2012年の10月に、

 同組織から脅迫を受けながらも、教育を受けられる権利を訴えて
いた15歳の女性、マララ・ユスフザイ(注2)さんの殺害を企ててい
ます。


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注2 マララ・ユスフザイ:

 パキスタン出身の女性で、フェミニストであり、人権運動家です。

 女子教育の重要性を訴え続け、2014年(当時17歳)にノーベル
平和賞を受賞しています。

 ちなみに、17歳でのノーベル賞受賞は、史上最年少記録です。
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 マララさんは、スクールバスに乗り込んできたパキスタン・タリバン
の戦闘員に銃撃され、

 頭部と首に合計2発の銃弾を受けて、一緒にいた2人の女子生徒
と共に負傷しました。


 銃弾は、マララさんの頭部から入り、あごと首の間あたりで止まっ
ていたといいます。

 外科手術によって銃弾は摘出されたのですが、今度は頭部に
感染症の兆候が現れてしまいました。

 しかしながら、

 移送先であるイギリスの病院において奇跡的に回復し、2013年
の1月に、およそ2ヵ月半ぶりに退院することが出来たといいます。

 その後、マララさんは家族とともに、

 イギリス国内にある仮の住まいでリハビリをしながら通院をつづけ、
同年の2月に再手術を受けています。



 ところで当然ながら、この、マララさんへの銃撃にたいして、

 パキスタン国内はもとより、パン・ギムン国連事務総長や、アメリ
カのヒラリー・クリントン国務長官など、世界各国から非難の声が
上がりました。


 さらに非難は、イスラム主義者からもなされ、

 アフガニスタンの軍閥指導者である、グルブッディーン・ヘクマ
ティヤールは、

 女子教育の必要性を指摘して、「パキスタン・タリバンの行動は
非道である」と、批判しています。



 ところが! パキスタン・タリバン側は、

 「女が教育を受ける事は許し難い罪であり、死に値する」

 などと、まるで狂気としか思えないような主張をして、徹底抗戦
の構えを示したのでした。


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 以上、ここまで見てきましたように、

 パキスタン・タリバンというのは、欧米諸国のみならず、イスラ
ム社会からも非難を受けるような、

 本当にどうしようもない、狂気じみた組織です。



 なので、

 このパキスタン・タリバンと、アフガニスタン・タリバンを、

 「どうせ同じタリバンなのだろう」と、一緒くたにしてしまうと、

 アフガニスタン情勢を見るときに、「とんでもない誤解」をしてしま
うので、注意が必要です。



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