アフガニスタンについて 2
2021年9月5日 寺岡克哉
前回で書きましたように、
タリバンは、アメリカ軍の攻撃により2001年に政権を失った
ものの、
その後20年の間、アフガニスタン国民の支持を徐々に集め、
着々と勢力を延ばしてきました。
しかしタリバンというのは、
イスラム過激主義者によるテロ組織であり、過去にはバーミヤン
の大仏を破壊しました。
また、女性に対しても極度に抑圧的で、
ブルカ(目以外をベールで隠して見えないようにする衣装)の
着用を義務づけたり、女性の就労を認めていませんでした。
さらには、
アメリカの9.11テロを実行した、イスラムテロ組織アルカイーダの
オサマ・ビンラディンをかくまって、アメリカ軍の攻撃を受けました。
そのため多くの人が、
タリバンにたいして「恐ろしい」というイメージを、持っているのでは
ないでしょうか。
ところが、それなのに、
どうしてタリバンは、アフガニスタン国民の大部分の支持を、受け
ることができたのでしょう?
* * * * *
その、いちばんの理由は、
ふたたび首都カブールを奪還するまでの約20年間に、タリバン
のイデオロギーが、
過激なイスラム原理主義から少し距離をおき、徐々にではあり
ますが、より伝統的なイスラム主義に変わって行ったからです。
なぜなら、タリバンの目的が、
自分たちは反乱兵以上の存在であり、統治する準備ができて
いて、
それを効果的に行えるのを、アフガニスタンの国民に示すこと
だからです。
たとえば、教育について見てみると、
タリバンは、首都カブールの親米政権の資金援助を受けた学校
を攻撃するのではなく、保護を確かなものにするために、学校を
共同利用しました。
とくに、親米政府派の治安部隊が、タリバンに対抗できるほど
強くない地方では、そうしてきました。
さらに、政府から学校に出る資金に対して不正がはびこる中で、
タリバンは教師の選定に責任をもち、
教師が授業はしないが給料をもらって満足している事態がない
ように、監督することすらあったといいます。
* * * * *
しかし、さらにタリバンの過去を遡(さかのぼ)ってみると、
イスラム過激派組織として政権を握っていた時期でさえ、
一部のタリバンには、外から見るのと異なる側面がありま
した。
その例として、
日本人であり、アフガニスタンで支援活動を長年つづけて
きた、
中村哲さん(医師:2019年に現地で銃撃を受けて死亡)の
証言があります。
中村哲さんは、
タリバン政権の時代において、2001年の9月11日にアメリカ
で同時多発テロが起こり、
アメリカ軍と有志連合による本格的な攻撃が始まる、同年の
10月に、
報道記者のインタビューにたいして、以下のように答えています。
「タリバンは訳が分からない狂信的集団のように言われますが、
我々がアフガン国内に入ってみると全然違う」
「田舎を基盤とする政権で、いろいろな布告も今まであった慣習
を明文化したという感じ」
「少なくとも農民・貧民層にはほとんど違和感はないようです」。
さらに中村哲さんは、以下のようにも語っています。
「女性の患者を診るために、女医や助産婦は必要。カブールに
いる我々の47人のスタッフのうち女性は12~13人います。当然、
彼女たちは学校教育を受けています」
「タリバンは当初、過激なおふれを出しましたが、今は少しずつ
緩くなっている状態です」
「たとえば、女性が通っている ”隠れ学校”。表向きは取り締まる
ふりをしつつ、実際は黙認している。これも日本では全く知られて
いない」
「我々の活動については、タリバンは圧力を加えるどころか、むし
ろ守ってくれる」
「たとえば井戸を掘る際、現地で意図が通じない人がいると、タリ
バンが間に入って安全を確保してくれているんです」
「我々のカバー領域はアフガン東部で、福岡県より少し広いくらい。
この範囲で1000本の井戸があれば40万人程度は生活ができると
思います」
たしかに、
当時のタリバンは過激派組織であり、多くのアフガニスタン人が
難民として祖国を捨てざるをえない状況をつくったのは事実です。
しかしながら、その当時から、
100%徹底した過激主義だけではない側面も、タリバンの一部
は持っていたことが分かるのです。
* * * * *
以上、ここまで見てきて分かりますように、
多くのアフガニスタン国民にとって、タリバンは、
あまりにも過激で、訳が分からない狂信的集団というわけでは、
ありませんでした。
だからこそ、20年もの間、多くの国民の支持を受けつづけること
が出来たのです。
もしも、これが、
たとえば「イスラム国」のように、異常なほど過激で、恐怖政治を
行うような組織だったら、
とてもじゃないけれど、20年もの長い間にわたって、多くの国民
の支持を受けることなど不可能です。
(事実イスラム国は、統治組織としては直ぐに崩壊しています。)
たしかにタリバンは、
西側諸国から見れば、女性の自由や権利を、大きく制限している
のは否定できません。
しかしながら、わが国の日本でも、
歴史的に見れば最近(1945年)まで、女性には「選挙権」さえも
無かったのです。
なので、このような問題は、
「国民の意識」に関わるところが大いにあり、すぐに解決できる
わけがなく、
その国の民度(注1)が、少しずつ上がって行くように、根気強く
支援をつづけるしか、
ほかに方法がないように思えてなりません。
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注1 民度:
ここで言う民度とは、ある特定の地域や国に住む人々の、平均的
な知的水準、教育水準、文化水準、マナー、行動様式などの成熟度
を指します。
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